印刷物を制作するためには、まず印刷用データを作成する必要があります。そのデータを印刷会社や加工業者へ入稿する際には、守るべきさまざまなルールや注意点が存在します。
データ入稿には、対応可能な形式がいくつかあります。一般的には、Adobe Illustrator(以下、イラストレーター)のファイル形式が多く利用されますが、Word、PowerPoint、PDFなどの形式にも対応する場合があります。今回は、特に多くの印刷物制作で用いられるイラストレーター形式を中心に説明します。
データ入稿時には、印刷会社が指定する形式や注意事項をしっかり確認することが大切です。「こうしておけば安心」といったポイントを押さえることで、トラブルを防ぎ、スムーズに印刷作業が進みます。
1. 仕上がりサイズや形状を正しく設定していますか?
印刷物を作成する際には、必ず仕上がりサイズでデータを作成することが重要です。例えば、チラシの場合はB6やA4といった用紙サイズを正確に設定する必要があります。また、パッケージや什器など形状が重要な印刷物では、サイズや形状が正確であることを確認することが欠かせません。
もし仕上がりサイズを間違えてしまうと、印刷工程だけでなく、データ入稿自体をやり直す必要が生じてしまいます。このようなミスは大きな時間とコストのロスを生む原因になります。特に納期がタイトな案件では、こうしたミスを未然に防ぐことが重要です。
データ作成に取りかかる前に、仕上がりサイズや形状が正しいかどうか、十分に確認しましょう。

2. 印刷データはCMYKで作成していますか?
印刷データを作成する際は、必ず色設定を「CMYK」にしてください。CMYKは印刷専用のカラーモードで、RGBモード(ディスプレイ用)とは異なります。もしデータがRGBのままだと、印刷工程でCMYKに自動変換されるため、思い描いていた色と異なる仕上がりになる可能性があります。
さらに、特色や白版を使用する場合には、これらをデータ上で正確に示すことが必要です。特色は特定の色を再現するためのインクを使う場合に指定されるもので、データ上で色玉をつけて明確にすることで、印刷会社側の認識ミスを防ぐことができます。白版も同様に、データ内に明示することで、特殊な仕上がりが求められる印刷物でも安心して依頼できます。

3. デザインにぬりたしを設定していますか?
印刷データを作成する際に、「ぬりたし」を正しく設定することは非常に重要です。ぬりたしとは、仕上がりサイズの端までデザインをきれいに印刷するために、仕上がりサイズの外側3mmまでデザインを伸ばしておく領域のことを指します。
このぬりたしを設定せずにデータ入稿すると、印刷時に生じる微妙なズレにより、仕上がりのフチに白い紙の地(余白)が見えてしまう可能性があります。特に背景色や写真がページ全体に広がるデザインの場合、この余白は仕上がりの見栄えを大きく損ねてしまいます。
データを作成する際は、仕上がりサイズに加えて、必ず3mmのぬりたしを付けてください。これにより、印刷ズレが発生してもデザインがフチまできれいに印刷されるため、仕上がり品質が格段に向上します。

4. 文字やデザインが切れていませんか?
印刷や断裁、トムソン加工は、必ずしも仕上がりイメージ通りに正確に仕上がるわけではありません。加工時に機械の特性上、どうしてもわずかなズレが発生することがあります。そのため、データ作成の際には、このズレを考慮することがとても重要です。
特に注意したいのは、文字やデザインの配置です。仕上がりサイズのギリギリまでレイアウトしてしまうと、ズレによって文字やデザインが切れてしまうリスクがあります。そのため、データ入稿の際には、仕上がり線から最低でも1.5mm以上の余白を確保して作成することをおすすめします。
ただし、加工の種類によっては1.5mmの余白でも足りない場合があります。特に安全性を高めたい場合は、3mm以上の余白を取ることを推奨します。

5. 文字はアウトライン化していますか?
データ入稿する際、使用したフォントが印刷会社にない場合があります。このような場合、フォントが正しく表示されなかったり、意図しないフォントに置き換えられたりする可能性があります。そのため、文字は必ずアウトライン化(図形化)を行いましょう。
アウトライン化することで、文字が図形としてデータに固定されるため、フォントに依存しなくなります。これにより意図した通りの文字デザインを保つことができます。また、フォントに関連するトラブルを防ぎ、スムーズな印刷工程が実現します。

6. アピアランスの分割をしていますか?
デザインデータにドロップシャドウ、透明、ぼかしなどの効果を使用している場合は、必ずアピアランスの分割を行い、効果を個別のオブジェクトとして処理してください。この作業を行わないと、印刷工程で予期しない結果となり、仕上がりに影響を与える可能性があります。
また、これらの効果を使用する際には、解像度を高解像度(300ppi)に設定してください。デフォルトの72ppiのままでは、効果が粗く、仕上がりがぼやけたり不鮮明になったりする可能性があります。高解像度に設定することで、滑らかな表現の仕上がりを実現できます。


7. 入稿データにPDFを添付していますか?
データ入稿の際には、確認用のPDFを必ず添付してください。PDFは、どの端末や環境で開いてもレイアウトや表示がほぼ変わらないため、入稿データに問題がないかを正確に確認する手段として最適です。
例えば、IllustratorやInDesignなどで作成した入稿データは、開く環境によってレイアウトが異なる場合があります。しかし、PDFを添付することで、印刷会社が正しい仕上がりイメージを確認できるため、データに関する誤解やトラブルを未然に防ぐことができます。
8. その他に気をつけたいポイント
印刷データを作成する際には、以下の点にも注意することで、スムーズな印刷工程と高品質な仕上がりを実現できます。
●レイヤーに分けていますか?
印刷データを作成する際は、各要素を適切にレイヤー分けしてください。例えば、印刷しない型データや、箔押しなど別の加工が必要な箇所をひとつのレイヤーにまとめてしまうと、分ける作業が発生してしまいます。この際、データを取り残したり、間違えて消したり、前後関係を間違えるリスクがあります。そのため、制作の段階でしっかり計画し、用途ごとにレイヤーを整理しておくことが大切です。
●ロック解除とグループ化を行っていますか?
データ内の要素がロックされている場合、印刷会社がデータを調整する際にスムーズに作業できなくなることがあります。また、関連する要素がグループ化されていない場合、移動や編集の際に取り残しや誤操作が発生する可能性があります。ロックを解除し、必要な要素を適切にグループ化することで、データの整合性を保ちながら効率的に作業を進めることができます。
データひとつを作成する際にも、確認すべきポイントは多岐にわたります。仕上がりの品質を大きく左右する重要なプロセスだからこそ、細部にまで気を配り、正確で適切な入稿データを作成することが欠かせません。丁寧に確認を重ねながら、慎重に作業を進めましょう。